援護点が1点台の不運な投手・山本由伸と無援護王・菅野智之の比較【ムエンゴ定期】

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「援護点、もうちょっと欲しいです。」

この言葉を今一番言いたいのは、オリックスの山本由伸投手ではないでしょうか。

山本投手は先発として防御率1.92と圧倒的に抑えていながらも、4勝4敗という成績にとどまっています(2019/7/8現在)。

これはオリックス打線の援護点が少ないことが要因の一つです。

しかし、山本投手はそんな言葉をおくびにも出しません。本心では思っているかもしれませんが、ただ耐えているのです。

そもそも「(援護点)もうちょっと欲しいです。」という言葉は、巨人の菅野投手が4月5日(2019)のDeNA戦のヒーローインタビューで語った言葉です。

この時菅野投手は9回を2失点で完投勝利しましたが、ジャイアンツ打線は3点しか奪えず、辛くも3-2で勝利したという試合です。

菅野の投手は援護点が少ないことで有名です。

だからこその発言であったことが伺えます。実際に菅野投手が投げる試合では、掲示板には「ムエンゴ(無援護)定期」と同情されることも多くありました。

ここで山本投手に目を向けると、山本投手は菅野投手と同じよつに援護点が少ないのに、なぜ「もうちょっと援護点が欲しい」と言えないのかという疑問が湧いてきます。

そこで今回の記事では、菅野投手と山本投手の無援護ぶりを振り返り、比較したいと思います。

また、山本投手がなぜ「援護点が欲しい」と言えないか、そしてこの援護点がない状況はチャンスであるという視点をお伝えします。

ポレポレK

この記事は2019年前半戦について書いた記事です!

2019/9/29追記:2020年通算成績】

防御率:1.95(最優秀防御率)

援護率:2.36(規定投球回クリア選手中12球団ワースト
*前半戦の援護率は1.56

2020年の援護率をまとめた記事はこちら↓

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目次

1. 菅野智之の無援護履歴

1.1 無援護の代名詞であった菅野

不運の代名詞、菅野投手の成績を振り返ります。

出典:データで楽しむプロ野球の2013-2019のデータを元に作成  2019/7/5時点

表を見ると、2013〜2016年にかけて防御率も下がっているものの、援護率も同時に下がっています。

2015年には防御率は1.91と文句のつけようがない成績でしたが、10勝11敗と負け越してしまっています。

一方で2017年からは援護率も上昇し、勝ち星を大幅に伸ばしています。

このように、菅野投手のキャリア前半は、援護率が少なくて勝ち星に恵まれない不運な投手だったと言えるでしょう。

もちろん、援護率だけではなく、救援陣が打たれたことによって勝ち星が消えることもあったはずですが、ややこしいため、この記事では考慮しないことにします。

1.2 何年も勝ち続けているからこそ言える「もっと援護点欲しい」

このように菅野投手は援護点が少ない時期がありながらも、その投球を進化させ続け、チームの勝利に貢献してきました。

菅野投手自身の勝ちがつかなくとも、チームの勝ちにつながる投球をしてきたのです。それは防御率が2点台以下の年が多くあることがものがたっています。

そして、日本のエースへと成長し、2017年のWBCでも大活躍しました。特に準決勝のアメリカ戦では、5回無失点と圧巻のパフォーマンスだったことを覚えている方も多いでしょう。

このような前提をもとに菅野投手の発言を振り返ると、その重みが分かります。

「もっと援護点が欲しい」。この言葉は、実働2,3年の若手投手が軽々と言えるようなものではないでしょう。

言ってしまえば「若造が!何を実績を残してないのにでしゃばってるねん!」と批判をされかねません。

一方で菅野投手の場合は違います。何年もの実績があり、さらには、数年も「援護点が少ない」状態の中で耐えて投げてきたからです。

「援護点が少なくてもチームを勝たせるのがエースだ」という意見もあるかもしれませんが、ものには限度があります。

菅野投手も人なのです。援護点をもらって余裕を持って投げたい気持ちもあるのが本音でしょう。

1.3 最も援護点が少なかった2016年の菅野

菅野投手の2016年シーズンは、援護点の少なさがより際立つ結果となりました。

*以下は規定投球回到達投手の中での成績です。

  • 26試合9勝6敗 183.1回 防御率2.01 189奪三振 5完投 26四球 WHIP0.99
  • 最優秀防御率、最多奪三振
  • 援護率2.86 セ・リーグ最下位 *パ・リーグを合わせても最下位

菅野投手は防御率2.01と圧倒的な成績で最優秀防御率のタイトルを獲得しながらも、援護率は最下位の2.86でした。

そのためこのような素晴らしい成績を残しても、最終的な勝敗は9勝6敗と10勝に届きませんでした。

その一方で、その年(2016)のセ・リーグの援護率1位は広島カープの野村祐輔投手でした。その値はなんと5.74。

カープ打線の援護に恵まれて、野村投手は16勝3敗で最多勝と最高勝率(.842)のタイトルに輝きました。

もちろん、野村投手の防御率は2.71であり、そのピッチングが優秀だったことは間違いありません。

ですが、野村投手の勝ち星は、広島打線の援護が大いに影響したと言えるでしょう。

2. 2019年の山本由伸が無双中!それでも無援護で勝てない

2.1 7月初旬までの山本由伸の成績

さて、ここで山本由伸投手に目を向けましょう(2019/7/6時点)。

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防御率セーブ奪三振試合数投球回奪三振率
1.92440861393 2/38.26
打者数被安打被本塁打与四球与死球敬遠失点自責点
36567523302420
完投完封無四球被打率QS率援護点援護率WHIP
1100.20176.92%171.560.96
2019 7月初旬までの成績

どの数字を見ても素晴らしいですね。特に防御率が1点台の1.92と、圧倒的に抑えていることが分かります。

その一方で、目立つのが援護率の低さです。援護率はなんと1.56。1試合あたり2点も取れない計算になります。もちろん、パ・リーグワーストです。

そのため、4勝4敗という成績にとどまっています。

2.2 各試合を振り返る

山本投手が登板した各試合を、以下の表で示しました。

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日時対戦防御率投球回投球数被安打被本奪三振与四
死球
失点自責点勝敗
7/5ソフトバンク1.927105907144
6/28西武1.6691245011200
6/18巨人1.856122827133 
6/11中日1.637114406111 
6月4DeNA1.67699815233
5/28ソフトバンク1.387113609300
5/16ロッテ1.57594614162
5/9日本ハム1.377103506311
5/2ロッテ1.388111613211 
4/25ソフトバンク1.4581151010400 
4/18日本ハム1.96690503244
4/11ロッテ0.538116307211
4/3ソフトバンク09100108200 

どの試合もそこまで大崩れしていないのが分かります。

唯一失点が目立つのが5月16日のロッテ戦の6失点です。

しかし、一見すると荒れているように見えますが、この試合の自責点は2点にとどまっています。実はこの試合、オリックス守備陣の3,4つのエラーが絡んでの失点でした。

そのため、山本投手は責められないでしょう。

2.3 注目試合その1~シーズン初戦でソフトバンクを9回1安打無失点の快投も、援護なく勝敗つかず

ここで特に特筆すべき試合を紹介します。

まずは2019年初戦、4月3日のホークス戦です。この日の山本投手は圧巻のピッチングです。

この日の山本投手は9回を1安打無失点、8奪三振と完璧なピッチングを見せました。しかし、残念ながらオリックス打線の援護がなく、勝ち星がつきませんでした。

123456789101112
SB000000000000010
Orix000000000000081

昨年まで中継ぎとして活躍していた山本投手が、先発投手としても充分にやっていけることを実力で証明した試合でした。

2.4 注目試合その2~6月28日プロ初完封勝利も8回までの援護点は1点のみ~

パ・リーグTV Youtubeチャンネルより

お見事、山本投手は6月28日の西武戦でプロ初完封を記録しました。

しかも、この時のオリックス打線は4点を取って山本投手を援護。この4得点は大量援護と言っていいでしょう。

なぜなら、この日までに山本投手が投げた試合の最大の援護点がわずかに3点だったからです。

そのため、この日は初めて4点以上の援護点あげた試合となり、何とかオリックス打線が山本投手を助けたという形になりました。

とはいえ、8回までのオリックスの援護点は1点のみでした。

山本投手は8回を投げ終えてオリックスが1-0でリードをしていましたが、もし山本投手がピンチを作った状態で降板した場合、中継ぎが打たれて逆転されてしまった可能性があります。

援護点が1点では勝ちがつく確率は低いことは明らかです。オリックス打線にはもっと早く援護して欲しいものです。

山本投手が今後長い期間活躍するためにも、野手は援護点を早めに多く取り、山本投手が中継ぎに任せても大丈夫な状況をつくることが必要でしょう。

3. 菅野2016と山本由伸2019の比較

3.1 援護率を中心とした比較

前半戦の成績を比較します。まずは援護率を中心に見ていきましょう。

 防御率援護率勝敗
山本20191.921.564勝4敗
菅野20161.592.816勝4敗

結果を見ると、菅野投手の防御率が1.59と上回っています。さすが菅野投手ですね。

一方で援護率は山本投手が1.56と、菅野投手の2.81をぶっちぎりに引き離した値となっています。

この結果から、単純比較はできませんが、山本投手の方が菅野投手よりも毎試合1点近く援護点をもらえていないことになります。

また、菅野投手はセ・リーグに所属しており、山本投手はパ・リーグです。セリーグはDHがありませんから、パリーグの方が点を多く取れるように思えます。

しかし、山本投手はパ・リーグでありながらも援護率は少ない状態でした。

3.2 投球回数、被安打、自責点などの比較

続いて他の項目の比較です。それぞれ平均の値です。

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投球回投球数被安打被本奪三振与四死球失点自責点
山本20197.15108.155.150.386.622.001.851.54
菅野20167.44111.255.810.387.251.251.561.31
前半戦の平均値の比較

結果を見ると、多くの項目で菅野投手が上回っていますね。特に与四死球が1.56というのはコントロールが良い証拠です。

とはいえ、菅野投手は4年目のシーズンである程度の経験を積んでいました。

一方で山本投手はわずか3年目、しかも先発ローテーションとして回るのは今年が初めてです。

そのことを考えると、山本投手は菅野投手のキャリアハイに近い成績を若干の20歳で残していることは、すごいとしか言いようがありません。

4. なぜ山本は援護点が欲しいと言えないか

4.1 昨年は中継ぎだったので、今年は志願して先発をやらせてもらっている

山本投手は昨年2018年シーズンは、中継ぎとして大活躍しました主に8回を任せるセットアッパーとして、54試合に登板し、防御率が2.89と素晴らしい成績を残しました。

しかしながら、山本投手は先発をどうしてもやりたかったようです。2018年オフになると、「先発をやりたい」とよく口に出すようになりました。

それもそのはず。山本選手には

先発として世界で一番のピッチャーになりたい

出典:「オリックス・山本由伸の志高き先発への思い」BASEBALLKING

という明確な志を持っているからです。

このような想いがあり、かつ、昨年は中継ぎをしていた事情。このようなことから、簡単に「援護点もっと欲しい」と言えないのでしょう。

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4.2 昨年中継ぎとして帯同していたからこそ、オリックスが点を取れないことを知っている

山本投手は昨年、春から夏場までずっとブルペンを支えてきました。

中継ぎとしてほぼ毎試合を見ることになりますから、オリックス打線があまり点を取れないことを実感していたのでしょう。

「援護点が欲しい」と言ったところで、すぐにそうなるとは期待していないのかもしれません。

とはいえ、このような現状を理解しているからか、山本投手はなるべく多くのイニングを投げようとしているように思えます(2019/7/6時点の平均投球回は7.15です)。

なぜなら、勝ち星がつくような状態になるようにするには、打線が奮起するのを待たないといけないからです。

このように、山本投手はオリックス打線の現状を充分に理解しているようにみえます。だからこそ、やすやすと援護が欲しいと言えないのではないでしょうか。

5. 山本の援護点が少ない理由 

5.1 オリックス打線が打てない

7/4(2019)終了時点のオリックス打線の打率は.235でパ・リーグ最下位です。また、得点もリーグ最下位の271得点で、1試合平均の得点率は約3.52点でした。

これは埼玉西武の平均得点率が5.27点だったことを考えると、とても低い値であることが分かります。(出典: データで楽しむプロ野球(2019/7/3終了時点))

このように、オリックス打線が打てないことが、山本投手への援護が少ない大きな要因の一つと言えます。

もちろん、オリックスの得点率が低いのは明らかですが、その中でも山本投手が投げる時には点があまり取れません。

5.2 相手のエースクラスと対戦する機会が多い

要因はオリックス打線だけにあるわけではなく、対戦相手のピッチャーが良いというの理由も考えられます。

相手チームがエース級の投手を投げてきたら、なかなか点がは取れません。

山本投手はカード頭を任せられることが多かったからか、相手投手がエースクラスだったことが多いようです。

実際に相手投手とその結果を振り返ると以下のようになります。

4/3 SB:大竹 7回無失点

4/11 ロッテ:岩下 6回1失点

4/18 日ハム:金子弌大(千尋) 5回無失点

4/25 SB:大竹 8回無失点

5/2 ロッテ:岩下 7回1失点

5/9 日ハム:加藤 3回2失点

5/16 ロッテ:種市 6回2失点

5/28 SB:二保 4回1失点

6/4 DeNA: 大貫 5回無失点

6/11 中日:阿知羅 5回1失点

6/18 巨人:今村 6回1失点

6/28 西武:今井 8回1失点

7/5 SB:二保 6回1失点

このように、安定した投球をする相手投手と対戦する機会が多かったようです。

とはいえ、大エースと呼ばれるような投手とは対戦していないような印象です。確かにソフトバンクの大竹投手は2度も素晴らしい投球をしましたが、やはりソフトバンクのエースと言えば千賀投手でしょう。

そんな中、西武ライオンズとの試合では今井達也投手という山本由伸投手と同学年対決は見ものでした。

オリックスは西武の時期エースの今井投手に対して8回1失点と抑えられながらも、山本投手はそれを上回る9回無失点で完封したからです。

まとめると、山本投手が投げる時の対戦投手はエースではないけれども、エースクラスの投手と対戦するために、オリックス打線は点を取れていないということになります。

6. 援護点が少ないことはチャンスである

ここまでいかに菅野投手と山本投手が援護に恵まれなかったかにふれてきました。これは紛れもない事実です。

しかし、援護点が少ないことはマイナスなことなのでしょうか。

もちろん、その投手自身に勝ち星がつく確率は低く、最高のピッチングをしても自分の成果に結びつかないことに苛立つこともあるでしょう。

ですが、援護点が少ないことはチャンスとも言えます。

それは、実際に援護がない時期を耐えて日本のエースになっていった菅野投手からみてとれるでしょう。

出典:データで楽しむプロ野球の2013-2019のデータを元に作成  2019/7/5時点

菅野投手は新人の2013から2016年まで防御率を下げ続けながらも、援護率も少ない状態で戦ってきました。勝ち星も年々減り続けましたが、それに耐えて進化を続けました。

その過程を選手や首脳陣、そしてファンが見ているからこそ、名実ともに巨人のエースとなり、2017年の飛躍を迎えたのです。

菅野投手は2017年3月にはWBC準決勝のアメリカ戦での5回無失点と快投し、世界でも通用する日本のエースであることを証明しました。

もちろん、2017年のシーズンも最多勝や沢村賞など堂々たる結果でした。

このように、菅野投手は援護点が少ない中でも腐ることなく自分自身を高め続けました。

また、援護点が少ない中でもチームに貢献するピッチングを身につけたのでしょう。実際にアメリカとのWBC準決勝では、菅野投手が降板する5回まで0-0の同点の痺れる展開だったからです。

以上のことから、援護点が少ない環境にいることは、むしろ「どんな状態でも勝てるエースになる」ための絶好の機会であるとも捉えられるのです。

ですから、山本投手が置かれている援護点が少ない環境も、日本のエースになるためのチャンスであるとも言えるのです。

とはいえ、山本投手自身の本心としては「援護点が欲しい」「こんな環境イヤだ」と思っているかもしれません。

そのため、オリックス打線にぜひ山本投手を援護してもらいたいものです。

しかしながら、そう簡単にはいかないのが厳しいプロ野球の世界でしょう。

山本投手に援護が少ない状況は、今後もしばらく続くと思われます。

ですが、ぜひ山本投手にはその環境を利用し、さらに成長して欲しいと思います。

ーピンチはチャンスー

不運と思われるような状況をこそ、山本投手はチャンスに変えられると信じています。

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