三遊間にライナー性の強いゴロが転がってきた。
素早く足を動かして逆シングルでさばき、ワンバウンドで一塁に送球。審判の判定は余裕でアウト。味方のベンチやまわりには、普通のショートゴロに見えたことだろう。
しかし、私の心の中でガッツポーズをした。
周りから見ればただのショートゴロ?
このシーンは、私が高校2年生の練習試合でのワンシーンです。味方、対戦相手、または見にきていた保護者のすべての人が「ただのショートゴロ」に見えていたと思います。
ではなぜ、私は心の中でガッツポーズしてしまったのでしょうか?
「そんなの知らんがな」っとあなたは思うかもしれません。
しかし、もし野球に少しでも本気で関わったのであれば感じるであろう、あの瞬間に出会ってしまっと言ったら、共感していただけると思います。
その瞬間とは、「誰にも知らずにうまいプレーできた時の、ものすごい快感」です。
今日は、「誰にも知らずにうまいプレーできた時の、ものすごい快感」について、書いていこうと思います。
誰にも知らずにうまいプレーできたのはものすごく快感
誰にも知られずに、うまいプレーをできた時に感じる達成感はたまりません。苦しい練習をしてきて良かった、野球って本当に楽しい!と心から思える瞬間です。
例えば私が体験した冒頭のシーンを振り返ってみます。
あのシーンは、7回裏2死満塁、2-1でリードしている場面でバッターは4番の右打者でした。その試合を左右する大事な場面です。
通常であれば、2死ですからショートは定位置付近に守ります。なので、私は定位置で守っていました。
ですが、私は投手がボールを投げる前に三遊間に寄りました。なぜなら、捕手のサインが外角低めのカーブを要求していたらからです。
さらに、投手がボールを投げた後に、打者の体勢が崩れるのが分かりました。なので、さらに三遊間に軽くジャンプしながら移動しました。
すると、さすが相手は4番打者。体勢を崩しながらも、三遊間に強烈な打球を放ちました。
相手のベンチが「ウワァァ—–!」と盛り上がるのが聴きながら、ボールをさばき一塁に送球しました。
結果は冒頭のシーンの通りです。
三遊間にライナー性の強いゴロが転がってきた。
素早く足を動かして逆シングルでさばき、ワンバウンドで一塁に送球。審判の判定は余裕でアウト。味方のベンチやまわりには、普通のショートゴロに見えたことだろう。
しかし、私の心の中でガッツポーズをした。
私は、ベンチに帰りハイタッチで迎えられました。
しかし、ベンチや監督のムードは「あの場面でピッチャーがよく踏ん張った!」というものでした。
私は、「俺がピンチを救ったー!!」と心の中でガッツポーズをしたのでした。
誰にも分からないこの感情
この時の喜びは格別です。
しかし、この感情は誰にも伝わりません。
いくら私が、投手と捕手の意図を読み、場面や打者を分析してプレーをしたとしたも、客観的に見れば「ただのショートゴロ」です。野球も含めて、スポーツの世界では結果で判断されるので当然といえば当然です。
だからこそ、「分かる人には分かる」のかもしれませんが、少なくとも私は理解されることがほとんどありませんでした。
逆に考えると、他の選手が「普通にヒットを打ち」「普通に盗塁を決め」「普通に三振を取る」ということに、私がいかに関心がなかったのかが分かります。
ただ、このような「誰にも分からずにチームに貢献する」ということの積み重ねが、チームの強さになることもあると思います。
強いチームほど見えないところを大事にしますし、プロ野球には私たちが想像しえないところでの駆け引きがあるのでしょう。
とはいえ、そもそも「誰にも分からずにチームに貢献すること」は、その選手の能力が低かったらほとんど意味をなしません。
例えば、私が体験した冒頭のシーンでも、ものすごく足が速く強肩の選手であれば、定位置で守っていたとしても、”華麗に””余裕で”アウトにしていたでしょう。その選手にとっては、当たり前のプレーであり、私のような「細かいこと」を頭に入れていなくても、本能でアウトにしてしまいます。
野球は最高だと思える瞬間の一つ
世の中には、持って生まれたセンスや、何にも考えずに圧倒的な結果がでてしまう人もいます。それは、レベルが上がるにつれて、そのような才能や身体能力が大事になってくるのかもしれません。
しかし、私のような凡人にとっては、見えない努力が形となって現れる瞬間は、本当に最高です。
朝から晩まで、睡眠から食事まですべてを野球に捧げている人間にとっては、どんなに他の人に分からなくても、普段から意識していることが形になることは、至福の瞬間と言っていいでしょう。
この気持ちは分かって欲しいけれど、分かって欲しくないという複雑な気持ちです。
ただ、この気持ちこそが野球が好きな理由を一つであり、野球をうまくなりたいというモチベーションであったことは事実です。
あなたには「分かって欲しいけど分かって欲しくない」、そんなプレーはありましたか。