熱闘を制した星稜・奥川投手が智弁和歌山・黒川主将から感じた「智弁和歌山の強さ」とは -日本一の確信と覚悟-

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延長14回165球

23奪三振

1失点完投勝利

この伝説的な投球を、プレッシャーのかかる夏の甲子園でやってのけたのは、星稜高校の奥川恭伸(やすのぶ)投手です。

2019年8月17日の第2試合は、ベスト8をかけた熱戦となり、延長14回タイブレークの末に星稜高校(石川)が智弁和歌山高校(和歌山)に勝ちました。

しかも、強打の智弁和歌山高校を相手にです。智弁和歌山高校は、その前の試合で3本ホームランを放って逆転勝ちしている強打のチームでした。実際に試合後の奥川投手も

最後まで智弁和歌山打線は怖かった

星稜・奥川 “怖がり”だからこそ…細心の注意が生んだ快投

と語っています。

その相手に圧巻のピッチングをした奥川投手はすごいとしか言いようがありませんが、智弁和歌山打線の「怖さ」だけではなく、智弁和歌山の「強さ」も感じとっていたようです。

というのも、奥川投手は延長11回の途中でふくらはぎがつり、ベンチに戻る姿もありましたが、11回裏に星稜の内山選手から熱中症対策の塩分補給剤を渡されたのです。

その送り手はなんと、相手智弁和歌山の黒川史陽(ふみや)キャプテンでした。

相手チームを助ける、まさに敵に塩を送る行為に対して、 奥川投手は

元気になった。ありがたかった。でもこれが智弁の強さかとも感じた。

足つりかけた星稜・奥川に敵主将が熱中症防止の錠剤 日刊スポーツ

と語っていたのです。

この発言から分かるように、奥川投手は黒川選手の行為から智弁和歌山の強さを感じていました。

でも、疑問に思ったのは「その智弁和歌山の強さって何か」ということです。

もちろん、智弁和歌山の強打が強さの一つであることは言うまでもありません。しかし、それは前々から分かっていることですし、黒川選手の相手を助ける行為が、智弁和歌山打線に直接的に関係があるようには思えません。

そうするとますます「奥川投手が感じた強さは何か」が気になってきます。

そこでこの記事では、星稜・奥川投手が智弁和歌山・黒川キャプテンから感じとった智弁和歌山の強さとは何かを考えていきたいと思います。

目次

黒川選手の優しさだけが強さなのか?

優しさや友情が強さ?

黒川選手と奥川選手は18歳以下の代表候補のチームメイトです。強化合宿でも話し合う姿が見られ、お互いに認め合う存在なのでしょう。

黒川選手の素晴らしい行為の裏には、2人が面識があり、友情があったことが伺えます。また、黒川選手の相手を思いやる気遣いや優しさも伝わってきます。

しかし、黒川選手のような「相手を助ける行為」は素晴らしい行為ではありますが、それイコールで「強さ」にはならないでしょう。甲子園でてくるような強いチームではなくても、相手を助ける「優しい行為」は意識次第で実行することができます。

もちろん、それをとっさにできる黒川選手はさすがです。しかし、この「優しさ」は奥川選手が強さを感じた1番の理由にはならないでしょう。

周りを見えていることが強さ?

黒川選手は智弁和歌山のキャプテンとしてチームをよく観察してまとめるだけではなく、相手チームや試合状況までも「観えて」いました。

だからこそ奥川選手に直接渡さず、星稜の他の選手を通して渡すという粋な手段をとれたのでしょう。

なぜなら、黒川選手が敵チームの奥川選手に直接的に塩分補給剤を手渡したとしたら、おそらく場内は拍手喝采となりますが、流れが止まってしまう可能性があるからです。

さて、この黒川選手の視野の広さはさすがですが、これも「強さ」の1番の理由にならないでしょう。

「強さ」の要因にはもちろんなりますが、視野の広い選手は沢山います。それこそどのチームのキャプテンも視野は広くなくては務まりません。

タイガーウッズのメンタルこそが強さ

このような要因を考えているうちに、ある逸話を思い出しました。それは、優勝を争うプレーオフでのタイガー・ウッズのメンタルです。

タイガー・ウッズ選手は相手の成功を心から願っていたのです。

それは2005年「アメリカンエクスプレス選手権」という大会の最終日での出来事。プレーオフまでもつれ、相手の選手がパットを外せばタイガー選手の優勝が決まる場面となりました。タイガー・ウッズ選手はどう思っていたのでしょうか。それは、

パットよ、『入れ!』

でした。

普通は相手のショットが外れれば自分は優勝ですから、「入るな!」と思うでしょう。

しかし、タイガー・ウッズ選手は「頼むから、入れてくれ!」と願ったのです。

なぜでしょうか。

それは、タイガー・ウッズ選手が自分自身を「常に世界最高のプレーができるナンバー1のプレーヤー」だと信じているからです。そんなナンバーワンの自分にふさわしい相手なら、このパットを決めて当たり前だと思っていたのです。

もちろん、相手のパットを「外せ!」と願って入ってしまったら、延長のプレーへのモチベーションが下がってしまうことも、その理由の一つにあるでしょう。しかし、その背景には「常に自分は世界一のプレーヤーであり、その相手もそんな自分に相応しいくらい強い相手だ」と本気で思っている心情が伺えます。

さて、実際に相手のパットはどうだったのでしょうか。

結果は外れてタイガーウッズ選手が優勝しました。しかし、ここでもタイガー・ウッズ選手は驚きの表情を見せます。

普通は喜びを爆発させるシーンですが、タイガー・ウッズ選手はなんとその真逆、「ウンザリ」した表情になったのです。

タイガー・ウッズ選手は本気で入れてくれと思っているからこそ、相手が外した時にはウンザリしたのです。

このように、タイガー・ウッズ選手は、高い目標とそれが当たり前に達成できるというメンタルを持っていました。もちろん、「世界最高のプレーヤー」というイメージがあるからこそ、それだけの練習を当然してきているはずです。

黒川選手が奥川選手を助けた行為の裏には「タイガー・ウッズ」と同じメンタリティーがある

では、このようなタイガー・ウッズ選手のメンタルが、どのように智弁和歌山の強さに繋がるのでしょうか。私の仮説はこうです。

黒川選手、ひいては智弁和歌山はタイガー・ウッズと同じメンタルを持っている

その理由に下記の2点を挙げたいと思います。

理由1:100%の状態の相手と戦いたいと思っている

黒川選手が敵チームの奥川選手に塩分補給剤を渡した行為そのものが、それを物語っているでしょう。

なぜなら、普通の選手であれば塩分補給剤を渡せないからです。というのも、奥川投手が降板すれば、その次の投手こ格が落ちることは否定できないからです。

しかし、黒川主将は相手を助けたのです。

さらに試合後の黒川選手本人のコメントからも、「相手の100%を願い、それを勝って日本一になる」という覚悟が伝わります。

(届けた理由はと聞かれ)どちらも日本一を目指している。自分も本気だから、奥川にも一番良い状態で、本気で来てほしかった。

試合後の黒川キャプテンのコメント

理由2:本気で日本一を目指し、自分が敗れた場合はその相手が日本一であるくらい強くないと納得できない

黒川選手は智弁和歌山高校のキャプテンとして、日本一になることを掲げて練習に明け暮れてました。強豪校を率いるキャプテンだからこそ、

たくさん喧嘩した。数えくれないくらい怒った。

と本人も語っています。

さらに試合後に語った下記の言葉は、いかに黒川選手が本気で日本一を目指していたかが伺えます。

星稜はすばらしいチーム。日本一になってもらわないと自分たちは納得がいかない。

以上のことから、黒川選手はタイガー・ウッズ選手のメンタルを持ち、ひいてはそれが智弁和歌山の選手にも伝わっていると思えます。

星稜・奥川投手が智弁和歌山・黒川主将から感じた「智弁和歌山の強さ」とは

このような、タイガー・ウッズのメンタル、すなわち

「高い目標(日本一)を必ず達成できる!」

という気持ちを持っていることこそが、智弁和歌山の最大の強さだと思えてなりません。

奥川君が感じた「強さ」の正体はこれなのではないでしょうか。それを実際に打者と投手で対峙することで「まざまざ」と感じた奥川君だからこそ、無意識にそれを感じたのではないかと推察します。

黒川キャプテンをはじめ、智弁和歌山高校から漂うオーラは、次のようなメンタルがその背景にあるからだと考えます。

万全な100%の相手を倒してこそ全国制覇をしてこそ本当の日本一。

そして、その100%の相手を倒せるという確信と覚悟がある。

それだけの練習と努力を死ぬほどやってきた。だから負けるはずがない。

このようなメンタルが備わっているからこそ、黒川主将は「敵に塩を送ることができた」のでしょう。なぜなら、「敵に塩を送ったとして、100%の状態の相手を倒せる。そして日本一になる」と本気で思っていたからです。

奥川君が試合後に号泣した最大の理由

一方で、勝利した星稜高校の奥川君は試合後号泣しました。 なぜ号泣してしまったのでしょうか。

それは、試合終了の挨拶の後、黒川主将と握手をして

日本一をとってくれ

と言われたからです。

この握手と言葉にはいろいろなものが混じっていることでしょう。

感動、嬉しさ、達成感、、、、

ですが、1番の理由は

黒川君の本気で日本一を目指してきた想い

を託されたからではないでしょうか。実際に奥川選手も、

(黒川選手から)「絶対、日本一になってくれ」と言われて、こみあげてくるものがあった

と述べていいます。

まとめ

この記事では、星稜・奥川投手が智弁和歌山・黒川主将から感じた「智弁和歌山の強さ」を考えてきました。

私なりの結論は、

タイガー・ウッズのような高い目標を確信できるメンタルこそが、黒川主将の凄さであり、「智弁和歌山の強さ」

です。

その高い目標とは、「日本一」であり「全国制覇」をする覚悟と責任のことであることは明らかです。そこには、「100%の状態」の相手を倒して勝つという前提もあるでしょう。

とはいえ、その日本一の覚悟を倒した「奥川投手」の快投は、あっぱれと言うほかありません。また、この試合が球史に残る伝説の試合として語り継がれることは、まず間違いありません。

しかし、この試合は奥川選手の凄さが披露されただけではなく、黒川キャプテンの日本一への想いと覚悟、ひいては智弁和歌山がなぜ甲子園常連の強豪たるかの理由が隠れていたと思います。

敵に塩を送る覚悟と勇気、そして100%の状態の相手を倒してこそ日本一という高い目標。

黒川史陽恐るべし。智弁和歌山の強さ、ここに表れたり。

追記:智弁和歌山の「神懸かり」は偶然ではない

この記事を書き終わった次の日、スポーツ雑誌のNumber Webさんに次のような記事が出ました。

智弁和歌山の神懸かりに勝る奥川恭伸。本当にドラフト候補は不作なのか。

Number Web:8月20日 :7:01

この記事では、智弁和歌山が前の試合で明徳義塾高校を7-1で逆転勝ちしたことを「神懸かり」と伝えていました。

具体的には、智弁和歌山が0-1と負けている7回表の攻撃で、7点をとった猛攻を指しています。黒川キャプテンの同点タイムリーなど長短打を集めて一気に追いつくと、さらにそこから3本のホームランを放った6点を奪って突き放したシーンです。

確かに、強豪の明徳義塾高校相手に1イニング7点を一気にとることはそうそうあることではなく、ましてや1イニングに3本のホームランが飛び出すとは「神懸かり」と言えると思います。

しかし、その「神懸かり」を起こした背景には、圧倒的な練習はもちろんのこと、この記事で書いてきたような「本気で全国制覇する、自分達がナンバーワンのチームだ!!!」という強いメンタルがあったことは想像に難くありません。だからこそ私は、この「神懸かり」的な逆転勝ちも偶然ではないと確信しています。

3本のホームランはもちろんのこと、その象徴は黒川キャプテンの「執念の同点タイムリーヒット」だと思います。

7回の1アウト一、三塁の同点のチャンスで黒川史陽選手が打った打球は、平凡なショートゴロと思えましたが、ショートの前で大きく跳ねるタイムリー内野安打となったのです。

これはまさに黒川キャプテンの気迫が勝ったような打球で、練習量に裏打ちされた強い打球でなければこのようなイレギュラーバウンドにはならなかったはずです。本当に鳥肌が立ちました。

智弁和歌山の「神懸かり」は偶然ではありません。

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