野球の試合をつくるのは、選手と審判だけでしょうか?いや、そうではないでしょう。
観客も含めて試合をつくっている。
先日に球場で高校野球の試合を観戦した際にそう確信しました。
なぜなら、観客の手拍子一つで試合の流れが変わってしまったのを目の当たりにしたからです。
観客が試合に与える影響は、各チームの応援団が選手を鼓舞し、選手に勇気を与えるということに留まりません。
どのチームにも肩入れしない観戦者の息遣いも、試合に影響を与えているのです。
観客は試合の流れでさえも変えてしまう
高校野球の例えで分かりやすいのが、2007年夏の甲子園の決勝戦です。
これは広島の私立の強豪校・広陵高校と佐賀の公立校の雄・佐賀北高校との対戦でした。
この試合は8回表まで広陵高校が4-0でリードしていました。佐賀北打線は、現広島東洋カープの野村投手の前に7回終了時までわずか1安打でした。
しかし、佐賀北高校は8回裏に連打と四球で突破の糸口をつかみます。この時点で、観客の雰囲気がざわざわとしてくるのです。
明らかに佐賀北高校を応援する手拍子が増えてきているのでした。佐賀北の応援に合わせて、広陵高校の応援している以外の人のほとんどが、佐賀北を応援するための手拍子をしていたのです。
手拍子の背景には、広陵高校が何度も甲子園に出場している名門私立高校であるのに対して、公立高校の佐賀北を応援したいという観客の心情があるのでしょう。
その中には、佐賀北高校が帝京高校などの強豪高校を逆転に次ぐ逆転で倒してきたというストーリーに魅せられた人もいたはずです。
大きな手拍子の結果、佐賀北の打者は一死満塁から押し出し四球を選ぶことになりました。この打者が四球を選んだ一球が非常に際どい球で、審判による疑惑の判定とも呼ばれたりしたのです。
この判定があっているかどうかは別として、観客の雰囲気が審判の心情に影響を与えたといえるかもしれません。またその雰囲気は、投げずらそうにしていた野村投手にも影響していたことでしょう。
その後、佐賀北の副島選手のミラクル逆転満塁ホームランが生まれたのです。
球場はスタンディングオベーションの嵐となりました。
もちろん、プレッシャーのかかる場面で見事に打った副島選手は素晴らしいの一言です。
ですが、そのホームランが生まれる背景には、佐賀北の選手全員のつなぐ意識だけではなく、球場の観客の雰囲気も影響していたことは間違いないでしょう。
観客が試合に影響を与えたのです。
野球の試合は音楽の演奏や舞台に似ている?
観客が試合をつくるという意味では、音楽やミュージカルの舞台に似ているかもしれません。
舞台の世界は演奏者や役者だけでは成り立ちません。演奏者や役者、さらに観客、その三者一体でその世界をつくり、味わっているのです。
例えば音楽の場合。同じ曲であっても、その日の演奏者のコンディションやホールや各楽器のコンディション、聴衆の雰囲気によって、生まれてくる音の響きは変化してくるといいます。
野球の試合も同様でしょう。野球という世界においても、それに関わる人すべてがお互いに影響しあい、世界で唯一の試合をつくっているのです。
同じ試合でも、選手のコンディションだけでなく、その日の天候や、観客の雰囲気で一つのプレーが変化するのです。
試合に参加しているという意識が野球を楽しくする
試合観戦をする際に、自分たちも試合をつくっているという感覚で見てみてはどうでしょうか。きっと楽しいはず。
なぜなら、ただ単に試合を見るという受動的な立場から、試合に参加するという能動的な立場に変わるからです。
では、積極的に試合を見る方法とは何でしょうか。
それは、逆説的ですが、自分のしたい見方で観戦することです。「なんだ、今までと同じか」と思うかもしれませんが、それで大丈夫です。
なぜなら、観客の役割はその試合を観戦することであり、無理に試合を操作することではないからです。
自分で観戦したい方法で観戦する。それに加えて、試合に影響を与えているという意識をもつだけで、いろいろな感情が味わえるのではないでしょうか。
様々な見方があっていい!あなたらしい観戦方法で試合へ参加しよう
もちろん、応援するチームが勝って欲しいという理由で、手拍子や口笛で流れをつくるというのもありでしょう。
しかし、誰もがそのような方法で観戦する必要はありません。
もっと冷静に試合を見つめ、ひとつのプレーの駆け引きに感動し、観戦者の誰もが黙っているところで、ひとりうなづくのもいいでしょう。
そのうなづきは、直接試合に関係しないかもしれません。でも、球場の雰囲気をつくるのに一役かっているのは間違いないのです。
同じ対戦同士の試合でも、選手のコンディションや観客の雰囲気で野球は変わってきます。そう考えると一度たりとも同じ試合、同じ野球はないのでしょう。
そのスペシャルな試合という世界を、選手だけではなく、観客も一緒につくっていくのは、野球の醍醐味の一つと言えるかもしれません。