野球においてマインドの重要性は大きい。
なぜなら、うまくなろうというマインドがなければ練習もしないし、能力があってもマインドがうまくはたらいていなければ、試合でパフォーマンスを発揮できないからだ。
マインドを高めるためには「コーチング」という手法があり、その方法論として、メンタルトレーニング(リハーサル)などがある。
コーチングは俗に言う「根性論」とは違う。根性論とは、wikipediaによると以下のように定義されている。
根性論(こんじょうろん)とは、苦難に屈しない精神=根性があれば、どんな問題でも解決できる・またはどんな目標にも到達できるとする精神論の一つ。
根性論の根本には、「無理な状態から問題を解決する」という考えがある。
しかし、「コーチング」の発想は真逆である。
マインドを高めることは根性論ではない
どんな発想かというと「理想な状態をイメージし、あたかも今現在その成功した状態であるかのように振る舞う」というものである。違いは、前提とする考えの時間軸である。
根性論の場合、「過去、または今」に着眼点が置かれている。「過去そして今現在できない状態を、なんとかがんばって解決する」というイメージだ。
一方でコーチングの発想は、未来からの逆算という時間軸でイメージを使う。具体的には、未来の成功している自分にフォーカスを置いているのだ。
どちらも現状を打破しようとする姿勢は同じだ。
しかし、それをどの時間軸からみて解決しようとしているかに違いがあるのである。
思った以上に強力なマインドのパワー
マインドのパワーはとても大きい。
うまく使えば、人々が無理だと思うことも達成できるし、逆に「無理だ」と思ったことが本当にできなくなる。
マインドをうまく使った例は、野茂英雄選手のメジャーリーグでの成功だろう。
野茂選手は初めてメジャーリーグでの成功したと言える日本人プロ野球選手だ。
トルネード投法から繰り出す剛速球とフォークボールで、両リーグでのノーヒットノーランをはじめ、メジャーリーガーから多くの奪三振を奪った。野茂選手のおっかけである「ノモマニア」という人々まで生まれたほどノモブームがメジャーリーグで巻き起こった。
しかし、彼がメジャー移籍をした当初、野球界をはじめ、ほとんどの人が「野茂は成功しない」と思っていたという。マスコミは彼を「変人」扱いしていたほどだ。
だが、野茂選手は違った。
必ず成功してやるというマインドを、言葉にせずとも心に秘めていたのである。それがなければ当時は無謀だという声が多かったメジャーへの挑戦などしなかっただろう。
もちろん、勝てば官軍という言葉があるように野茂選手がメジャーで活躍できなければ、マスコミはほらみろとばかりに彼を叩き、いずれ人々の心からも消えていっただろう。
とはいえ、少なくとも彼のメジャーリーグで成功するというマインドがなければ、彼の偉業は生まれなかったと断言できる。
その他の例もいくつかあげよう。同じスポーツというテーマであれば、10秒の壁問題がある。
10秒の壁とは、陸上の男子100メートル走において達成が難しいと考えられていた、9秒台に対する記録の壁である。この記録は、1983年5月14日にカール・ルイスが9秒97をマークして破られた。すると同年にカルヴィン・スミスが9秒93の世界新記録を樹立し、それに続き1980年代に多くの選手が10秒の壁を破っていった。
この現象は、カール・ルイス選手に続く選手のマインドが変化したことが原因だ。
100mを9秒台で走ることができることを知った選手は、今まで無理と思われていた「10秒を破ること」に対して「あぁ10秒切れるタイムで走れるのだ!」というマインドになったことで、実際に記録が達成できたものであると考えられる。
医療の分野では「プラセボ効果」が有名だ。
患者が本物の効果がある薬だと信じ込めば、それが例え偽薬であっても、実際に治療に効果あるというものである。
マインドが逆向きにはたらくことも
逆に、マインドがマイナスにはたらく場合もある。
それについて語っていたのが、かつて西武ライオンズで活躍したデストラーデさんだ。
デストラーデさんは、当時のチームメイトの秋山幸二選手について、メジャーでの成功ができる技術レベルがありながらも、マインドの準備ができていないために、メジャーに行っても成功しなかっただろうと語っている。以下が記事における、デストラーデさんの発言だ。
私は、メジャーリーグと日本の一軍との距離は遠くに感じていなかったよ。
結局、日本の選手やファンが、大リーグを精神的な部分(マインド)で遠いものと考えていただけじゃないかな。
実際、アキ(秋山幸二)の身体能力はメジャーリーグでオールスターに出場する選手ぐらい高かった。ラルフ・ブライアントやブーマー・ウェルズ、マイク・ディアスといったほとんどの外国人選手が『アキは間違いなくメジャーで通用する』と話していたからね。キヨ(清原和博)のパワーもメジャーで通用しただろうし、渡辺久信も素晴らしい投手だった。
ただ……アキが実際にメジャーリーグに行っていたら、成功するのは難しかったと思うんだ。技術ではなく、マインドの部分での準備ができていなかったからね
島村誠也●文text by Shimamura Seiya photo by Kyodo News「デストラーデ「野茂は人間だけど、イチローはエイリアンだね」(2015年8月2日アクセス)
この発言からも分かるように、当時の日本人選手はメジャーリーグでの成功はおろか、メジャーリーグに行こうという発想さえも皆無だったことがうかがえる。
おそらく、当時の選手達にとってメジャーリーグは雲の上の存在だったのだろう。
確かに、メジャーはパワーもスピードも日本のプロ野球よりもはるかにレベルが高い。
しかし、イチロー選手のように成功している日本人選手がいるように、工夫次第でメジャーでも活躍できることが証明されている。
とはいえ、当時の選手にとってのメジャーリーグは、陸上における「10秒の壁」のように極めて困難な課題だっただろう。
だからこそ、野茂選手の偉大さが改めて確認できるわけではあるが、技術的にもメジャーリーガーであった秋山選手がメジャーリーグに挑戦しなかったのは、メジャーでは成功しないのではないかというマインドがはたらいたせいだろう。
ゴールのレベルと確信度
これからまさに甲子園が始まろうとしてる。
高校野球もこの「マインド」の違いによって成果が違っていくる。それぞれのチームや個人のゴール(目標)のレベルとその確信度が、パフォーマンスに大きく影響していくるからだ。
例えばひとえに甲子園という目標に対しても、チームによって思っていることは全くことなる。
- 甲子園優勝する
- 甲子園ベスト4の入る
- 甲子園出場する
- 甲子園に行きたい
- 甲子園に出れればいいなあ
上記のように、甲子園で優勝することがゴールである高校と、甲子園に出場するだけで満足だという高校では、そのパフォーマンスに大いに影響するのは容易に想像できるだろう。
仮に同じくらいの能力を持っていたチームだとしても、その能力を発揮できるのは高い目標を持っているチームではないだろうか。
例として、全国制覇を目指している強豪私立高校と対戦する初出場の公立高校との試合を考えてみよう。全国制覇を目指しているチームは、そもそもその試合は通過点でしかなく、いつもどおりのプレーに集中するだろう。
一方で、公立高校が相当のメンタルリハーサルや甲子園で活躍する心の準備が日頃からできていない限り、「その舞台に舞い上がり、甲子園でプレーすることに満足してしまう」だろう。
その結果、四球やエラーなどの自滅によってリズムを崩して負けてしまうのだ。
もちろん、2007年の佐賀北高校の「がばい旋風」のように、全国制覇しようという高いゴールとその諦めない姿勢があれば問題ないだろうし、結果もついてくるだろう。
しかし、その目標が低ければ、わずかな隙がが生まれ、その試合の勝敗を決定づけてしまうのである。
マインドが結果を左右する
このようにマインドの持ち方、使い方によって成果が大いに異なってくる。
これは、野球だけでなくそのほかのどのスポーツにも当てはまることだろう。
さらに、仕事や教育や政治等にも共通する部分があるだろう。現状から大きく離れている高い目標を掲げ、達成できると確信できる力は、考えられないような良い成果をもたらす最大の要因になるだろう。
もちろん、そのマインドを持つだけでなく、実際に現状を打破する方法を見出して実行する必要があることは言うまでもない。野球で言えば、それは日々の練習であり試合がそれにあたる。
だがその練習や試合も、高いゴールを持ちそれを必ず達成できるというマインドがなければ、生産性も上がらない無駄な時間になってしまうだろう。
素晴らしいチーム、ものすごい選手には、優れた技術や圧倒的な身体能力、そして結束力がある。
だが、その背景には「強靭なマインド」を持っていることを忘れてはならない。
野球はマインドが9割だ。